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蒸気タービンロータの翼溝UT検査 ~『三菱重工パワーインダストリー技報Vol.7』より

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2025/5/26

蒸気タービンの回転部である「ロータ」は、高速かつ高温の環境下で運転されるため、その健全性の確認は極めて重要です。なかでもタービンロータの植え込み部「翼溝(よくこう)」は、応力や腐食の影響を受けやすく、亀裂が生じやすい領域です。 本稿では、『三菱重工パワーインダストリー技報 Vol.7(2022年)』に掲載の「蒸気タービンロータの翼溝UT検査」から一部要約し、翼溝部に対する超音波探傷(UT)法の概要を紹介します。

タービンロータに発生する応力腐食割れの原因と特徴

応力腐食割れ(SCC=Stress Corrosion Cracking)とは、合金鋼に引張応力(ひっぱりおうりょく)がかかった状態で腐食環境にさらされた結果、亀裂が生じる現象のことです。
タービンロータの翼の植え込み部(翼溝)には、以下3つの条件が重なるため、SCCの発生リスクが高まります。
1. 応力:タービンロータは高速回転するため、翼溝部には高い引張応力が集中する。
2. 材料:高温・高圧下にさらされることから、高強度の合金鋼を使用する。
3. 環境:復水タービンの低圧段では蒸気が湿潤化し、腐食成分の付着が助長。特に乾湿が繰り返し起こる領域では、腐食成分が濃縮する。

応力腐食割れの発生条件
応力腐食割れの発生条件

また、SCCに起因する亀裂には、以下の特徴が見られます。
1. 応力が高い部分(応力集中部)から発生する。
2. 表面に多数の腐食ピットを伴うことが多い。
3. 破面は粒界に沿った形状を示し、亀裂は複雑に分岐しやすい。

「翼溝の応力腐食割れ不適合事例」はこちら からご覧ください。

翼溝部の応力腐食割れによる亀裂
翼溝部の応力腐食割れによる亀裂

翼溝部の健全性を支える超音波探傷技術

SCCの発見と予防には、翼溝部の検査が不可欠です。しかし翼溝部は外部から直接観察できないため翼を抜き取り、検査後に再装着しなくてはなりません。この方法では代替翼の準備も必要となり工期がかかります。こうした課題を解決するため、翼を取り外さずに検査が可能な超音波探傷(UT)法を開発。以下にUT法における2段階の検査手順と、技術の進展について紹介します。

【検査手順】翼溝部におけるUT検査の2ステップ

1. 一次探傷検査(反射エコー法)

亀裂の有無を大まかに把握するため、反射エコー法を用いた一次検査を実施します。
この段階では、亀裂の疑いがある箇所を特定することが目的です。

2. 二次探傷検査(端部エコー法)

一次検査で亀裂と判断された異常箇所が誤検出ではないことを確認し、さらに亀裂の長さ(高さ)を把握するため、端部エコー法による検査を行います。集束型プローブを用いて、亀裂の起点(下端)および終点(上端)を検出します。

【技術進展】翼溝フェーズドアレイUT探傷による検出精度の向上

検査の高精度化を目的に、現在はフェーズドアレイUT法を採用しています。この方法では、多数の圧電素子を持つプローブを用いて各素子の送受信タイミングを制御することで、超音波の波面を形成し亀裂を画像化します。また亀裂の検出精度を高めるため、三菱重工パワーインダストリー独自の技術によるプローブの最適化を行っています。

【検査実績】約30年にわたる信頼性の蓄積

三菱重工パワーインダストリーでは、約30年前から翼溝部のUT検査を実施しており、検査数は200件を超えます。当初は亀裂の有無を確認するのみでしたが、端部エコー法の確立により亀裂の長さの推定が可能となりました。さらに2008年頃からは、フェーズドアレイUT探傷を採用したことで、亀裂の長さの検出精度が格段に上がりました。こうした実績から余寿命の算出が可能となり、亀裂の進展具合に合わせた保守対応を実現しています。
1994~2019年の翼溝部UT検査の結果グラフはこちら からご覧ください。

翼溝フェーズドアレイUT探傷例
翼溝フェーズドアレイUT探傷例

蒸気タービンロータの翼溝部UT検査の詳細について

『三菱重工パワーインダストリー技報Vol.7』では、亀裂発生時の対応や余寿命診断について詳細に解説しています。蒸気タービンロータの定期検査ならびに保守技術に関心をお持ちの方はぜひ、こちらからダウンロードの上、ご確認ください。

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