
脱炭素への第一歩 ~天然ガスへの燃料転換でCO₂削減とコスト最適化~
脱炭素社会の実現が急務となる中、発電や熱供給に関わる現場では、「燃料転換」が注目されています。特に石炭・重油から都市ガス・天然ガスへの切り替えは、環境負荷を大きく抑えつつ、運用コストも削減できる現実的な解決策です。本稿では、『三菱重工パワーインダストリー技報 Vol.9(2025年)』に掲載の「2030年に向けたカーボンニュートラル社会実現への取り組み ~早期燃料転換工事の必要性~」より抜粋してご紹介します。詳細については、技報本文をダウンロードの上、ご確認ください。
より詳しい技術解説をご覧になりたい方は、技報をダウンロードの上、ご確認ください。
出典:資源エネルギー庁『令和5年度 エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)第2部 エネルギー動向 第1章 国内エネルギー動向』P.118 より
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/2_1.pdf
出典:一般財団法人電力中央研究所『日本における発電技術のライフサイクルCO₂排出量総合評価(2016.7)』より作成
現在、日本の発電電力量の約7割は、石炭や天然ガスといった化石燃料に依存しています。
中でも石炭火力は、燃焼時だけでなく、採掘・輸送・設備維持を含めたライフサイクル全体で、CO₂の排出量が最も多い電源です。こうした背景から、政府は次の政策を段階的に打ち出してきました。
2020年:石炭火力の段階的廃止を発表
2021年:2030年度までにCO₂排出量46%の削減を目標に設定
2023年:省エネ法改正により、非化石エネルギーへの転換を明記
これらの動きを受け、CO₂の排出量が少なく、燃料供給の安定性にも優れた「都市ガス・天然ガス」への転換が、今まさに求められています。
出典:環境省「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」より作成https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/files/calc/itiran_2023_rev4.pdf
都市ガスや天然ガスへの燃料転換は、環境負荷の低減だけでなく、運用・保守コストの削減という実務面でも大きなメリットがあります。
特に石炭や重油を使う設備では、燃料特有の課題に対応するため、複雑な処理装置が不可欠です。天然ガスに切り替えることでそれらが不要となり、設備の簡素化と経済的効果が同時に得られます。
ここでは、燃料転換によって得られる主な効果を、環境対策・メンテナンス管理・ユーティリティー運用の三つの観点から整理します。
天然ガスは、燃焼時のCO₂排出量が少ないだけでなく、その他の有害物質の発生も大きく抑えられます。
1)CO₂排出量は、石炭焚きに比べて約40%削減、C重油焚きに比べて約20%削減
2)NOx(窒素酸化物)は、燃料中の窒素分が少ないため大幅に低減
3)SOx(硫黄酸化物)やばいじんは、燃料中に硫黄分や灰分を含まないため排出はほぼゼロ
燃料転換により、石炭特有の設備やトラブル要因がなくなるため、日常の保守対応・定期点検の負担が軽減されます。
1)石炭用の貯蔵設備・搬送装置・排ガス処理装置が不要に
2)燃焼灰による摩耗や腐食が発生しないため、修繕頻度が減少
3)点検日数の短縮やトラブル減少により、稼働効率が向上
運転に必要なエネルギーや消耗品の使用量が抑えられ、ユーティリティーにかかる費用を削減します。
1)排ガス処理に用いる薬品や電力の使用が不要に
2)燃焼灰処理費用が不要に
3)スートブローや油用バーナー関連の蒸気が不要なため、全体の運転効率が改善
→詳細は、『三菱重工パワーインダストリー技報Vol.9』をダウンロードの上、ご確認ください。
三菱重工パワーインダストリーでは、これまでに62件以上の燃料転換プロジェクトを実施。多くの設備が現在も安定稼働を続けています。改造工事の対象となる主な機器は、次の通りです。
●石炭・石油固有の燃料供給設備不使用もしくは撤去
●ガスバーナーと火炎検出器の更新
●過熱器伝熱面積削減・材料変更
●ガス配管・ガス制御装置の新設
●制御ロジック・DCS改造
●EP・排煙脱硫装置の不使用もしくは撤去
対象設備の規模や運用条件に応じて、最適な改造計画を個別にご提案可能です。
カーボンニュートラル社会に向けて、燃料転換はもはや選択肢ではなく必須事項です。
石炭や重油をベースとした発電・熱供給システムを抱える事業者にとって、都市ガス・天然ガスへの切り替えは、環境対策と経営効率の両面で高い効果を発揮します。
特に、多くの企業が2028年頃の導入を目標にしていることから、工事の集中や火炎検出器など一部機器の納期長期化が想定されるため、早期の準備・計画が求められます。
『三菱重工パワーインダストリー技報Vol.9(2025年)』では燃料転換について、より詳しく解説しています。ダウンロードの上、ご確認ください。
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