三菱重工パワーインダストリー POWER of Solution

interview

小林社長就任記念:『エンジニアリング・ネットワーク』編集長が三菱重工パワーインダストリーの展望についてインタビュー

2024/7/16

2024年4月に三菱重工パワーインダストリーの社長に小林雅浩が就任いたしました。そこで今回は特別企画として、プラント・エンジニアリング業界の専門誌『エンジニアリング・ネットワーク(以下ENN)』(重化学工業通信社 )の編集長である丸田敬氏に小林社長へインタビューをしていただきました。三菱重工パワーインダストリーの脱炭素社会へ向けたこれから取り組みや展望等、充実のインタビューをご覧ください。

産業用発電プラント事業が主力

ENN:今年4月に、三菱重工パワーインダストリーの社長に就任されました。これまでの経歴を教えてください。

小林:1989年(平成元年)に三菱重工業に入社して、長崎造船所に配属され、そこで主に、事業用発電プラント向けボイラーの設計を担当していました。
その後、2008年から約3年半、横浜製作所(横製)・金沢工場で産業用発電プラント向けボイラー設計を担当しました。2012年に長崎造船所に戻り、2023年に三菱重工パワーインダストリーに転籍後、1年間はサービス事業部の事業部長を務めました。

ENN:発電プラントについては、事業用と産業用の双方にエンジニアとして対応されてきましたが、事業用と産業用の違いについては、どのように認識されていますか。

小林:長崎造船所では、ほとんど事業用のボイラーの設計に携わっていました。その後、横製に転勤して産業用に携わりましたが、一番大きな違いはサイズですね。また、事業用のボイラーは蒸気圧力、温度が高い貫流ボイラーが主流ですが、産業用は事業用ボイラーに比べると比較的小型で蒸気温度・圧力ともに低いドラムタイプが主流でした。ただし、ボイラーとしては共通するところの方が多いですね。

ENN:今年4月、産業用発電プラントを主力事業とする三菱重工パワーインダストリーの社長に就任されました。三菱重工パワーインダストリーの概要を教えてください。

小林:主に産業用の発電プラントを扱っています。近年では、社会全体の脱炭素化ニーズが高まるのに伴い、バイオマスと地熱発電プラントの需要が高まっています。産業用発電プラント、バイオマス、地熱の発電プラントのいずれも単に納入させて頂くだけではなく、納入後にはアフターメンテナンスサービス(ごみ焼却設備向けサービスや基幹改良工事のサービスも含む)も提供しています。
当社は、ミッション(あるべき姿)として「産業用エネルギー事業のホームドクター」をかかげています。製品をお納めして終わりではなく、納入後も末永く使っていただけるよう種々対応をさせて頂いております。製品を設計して、熟知していますから、プラントが「どのように劣化するか」についても分かっています。こうした知見を活かして、お客様に「どういったタイミングで、どういった検査を行ったら良いか」のアドバイスができますし、検査の結果、必要に応じてパーツ交換のタイミングなどについても提案できます。私たちはプラントの安定稼働のために、様々なサービスを提供しています。

ENN:適切なサービスを提供するには、納入したプラントを常に監視する必要がありますが、監視サービスも提供されているのですか。

小林:お客様の要望に応じて、遠隔監視サービスを提供しています。遠隔監視サービスですが、最近では、メンテナンス要員を大勢お持ちでないバイオマス発電の事業者向けに需要が高まっています。従ってバイオマス発電では、プラントの設計・施工から稼働後のメンテナンスまで、ライフサイクルに渡り、当社がお手伝いしています。
現在バイオマス発電事業者を中心に約10件のお客様向けに、遠隔監視サービスをご提供させていただいております。

最大のミッションは脱炭素化への対応と産業用発電プラントの安定運転

ENN:プラント建設から維持管理まで、ライフサイクルに渡る幅広い領域をカバーしていらっしゃいますが、社長としてのミッションを教えてください。

小林:最大のミッションは、脱炭素社会に対応しつつ、発電プラントの安定した運転を実現することです。
それを実現するには、プラントの新設と既設の双方に対応する必要があります。
特に既設プラントについては、CO₂排出量が多い重油焚・石炭焚のプラントが数多くありますから、燃料転換を目的とした改造需要は非常に大きく、この需要に応えるのが重要なミッションだと認識しています。

ENN:石炭焚の発電プラントの改造には、どのような対応が可能ですか。

小林:ボイラーを石炭からガスへ切り替える燃料転換です。ガスへの燃料転換をしておけば、将来的に水素やアンモニア焚きへの次の燃料転換が比較的に容易にできますから、お客様にも積極的に提案しています。燃料転換は、プラントをほぼ残して、バーナー交換や、配管などボイラー周りの設備変更で対応できますから、供給範囲をある程度限定した工事で対応することも可能です。

ENN:「供給範囲をある程度限定した工事で対応することも可能」という点は、お客様にもアピールできますね。

小林:産業用発電プラントの場合、事業用のお客様とは異なり、主力の製造プラントのユーティリティとして使われています。縁の下の力持ちとして工場の安定稼働に非常に重要な設備ではありますが、本業生産のための設備ではありませんから、どうしても多額の費用をかけ辛い傾向にあると伺っております。このため、当社としても、投資額をセーブした提案をするように心掛けています。
またお客様の多くは電気だけではなく、蒸気も有効活用しようと考えているので、この点も考慮して、提案する必要があります。

ENN:三菱重工業グループには、化学プラントや製鉄プラントを専門にしているエンジニアの方が多くいらっしゃいます。総合的なエネルギーマネジメントを含めた提案も行っているのですか。

小林:三菱重工業グループと連携しながら、そうした提案も行っています。
プラントで必要な蒸気にしても、使用される場所や目的によって、様々な蒸気が必要になります。複数のプラントをどのようにつなげれば最も効率的になるかについても検討します。ガスタービンを導入し、ガスタービンコジェネレーションが最適と考えられるケースもあります。その場合は、三菱重工業のエナジードメインと連携します。
幅広い知見を活用した提案が必要になります。これらの提案には、当社だけで十分な対応はできませんから、三菱重工業と共同で取り組みます。

ENN:それぞれの工場に合った、発電プラントを提案する必要がありますね。

小林:複数の製紙メーカーさん向けに、三菱重工業がボイラーを納入しているのですが、このボイラーは、木材パルプを製造する時に、木材繊維を化学的に分解・分離した際に発生する「黒液」を燃料としています。黒液には分解・分離のために使われた薬品が含まれていて、溶かした黒液を噴射しながら燃やした後にその薬品を回収し、製紙工程用に再利用できるようにする特殊なボイラーです。この製紙メーカー用ボイラーは「回収ボイラー」と呼ばれていますが、黒液の元は木材なので、再生可能エネルギーのバイオマスと同じ扱いになっています。
これまで、三菱重工業が納入してきた回収ボイラーのアフターサービスと、これから新しく造るビジネスは、昨年すべて当社に移管されました。
この製紙メーカー用の回収ボイラーは、お客様の生産工程に適切に対応した技術事例として注目すべきです。

ENN:脱炭素化社会に対応する次世代エネルギーとして、水素・アンモニアが注目されていますが、これら次世代エネルギーの燃焼については、御社が独自に取り組まれているのですか?

小林:ボイラー用の水素焚きバーナーについては、自前で対応しています。水素焚きガスタービンとアンモニア焚きバーナーについては三菱重工業が開発に取り組んでいます。

ENN:水素焚きバーナーの技術開発はどこまで進んでいますか。

小林:現在、水素100%専焼で使用可能なバーナーの開発には目途がつきました。これを実際のユニットに適用しようとすると、例えば、最初は水素20%に対して、ガス80%というような構成比の混焼で対応を始めるのが現実的だと思います。そこから徐々に水素の比率を上昇させていく計画です。
ただ、水素の燃焼については、これまでにも経験を有しています。例えば、副生ガス焚のプラントでは、水素70%というガスも焚いているバーナーを納入しています。こうした実績がありますから、水素燃焼については、これまでに培った経験を有効活用できます。

ENN:独自に実証試験設備はお持ちなのですか。

小林:呉事業所に燃焼実験設備がありましたから、そこでバーナーの開発に取り組んできました。現在、バーナー単体としてしっかりと燃焼させるための開発は完了していますので、次のステップは実機にそれを装着して水素の比率を高める予定です。
親会社が取り組んでいるアンモニア混焼の開発についても、同様のステップで取り組まれています。

今後予想される人材不足には、メンテナンスにおける顧客との協業で対応

ENN:現在、日本は将来的に生産年齢人口が減少するという問題に直面しています。そうすると、プラント操業の省人化を実現する必要があると思いますが、この点については、どのように取り組まれていますか。

小林:お客様のメンテナンス要員も今後、減少することが予想されます。
これまで、当社が提案した内容に基づいてお客様独自にメンテナンスを実施してこられたケースもありましたが、将来的には当社がお客様と一緒になって直接メンテナンスをする取り組みも必要になってくると思います。

ENN:一緒にメンテナンスに取り組まれるというのは、どのような対応を想定されているのですか。

小林:お客様は様々なプラントをお持ちですから、「この設備はお客様が直接対応するが、こちらの設備は三菱重工パワーインダストリーに任せよう」という要望が出てくると思いますから、この要望にお応えします。

ENN:社会全体で脱炭素化を目指す動きが加速しています。こうした社会の状況を見て、御社として、どのように対応されますか。

小林:三菱重工業は2040年ゼロエミッションを目標にしていますし、社会全体でも脱炭素化の動きが加速しています。こうした動きに貢献できる所を目指したいと考えています。
お客様は脱炭素化を目指しつつ、今あるニーズにいかに対応すべきかを考慮しながら取り組んでいます。それは三者三様、十人十色ですから、状況を見ながら、適切に対応するようにしています。お客様の慎重な対応を適切にサポートさせて頂きながら、社会全体の脱炭素化に貢献したいと思います。

ENN:ありがとうございました。

インタビュアープロフィール
丸田 敬(まるた たかし)
1986年からプラント・エンジニアリング業界の取材を始め、1999年に重化学工業通信社発刊のENN(エンジニアリング・ネットワーク)誌を創刊。以後25年間に渡り編集長を務めている。

プロフィール

小林 雅浩(こばやし まさひろ)

学歴
1989年03月 九州大学大学院 機械工学専攻 修了

職歴
1989年04月 三菱重工業株式会社 入社
2006年02月 三菱重工業株式会社 ボイラ技術部 ボイラ設計課長
2008年12月 三菱重工業株式会社 原動機事業本部 ボイラ統括技術部次長
2014年02月 三菱日立パワーシステムズ株式会社 ボイラ技術本部 ボイラ技術部次長
2017年04月 三菱日立パワーシステムズ株式会社 エンジニアリング本部 ボイラ技術総括部 ボイラ技術部長 兼 長崎工場 副地域統括
2018年04月 三菱日立パワーシステムズ株式会社エンジニアリング本部 ボイラ技術総括部 副総括部長 兼 ボイラ技術部長 兼 長崎工場 副地域統括
2020年04月 三菱日立パワーシステムズ株式会社 スチームパワービジネスユニット副ビジネスユニット長 兼 長崎工場長 兼 サービスビジネスユニット ビジネスユニット長代理
2020年09月 三菱パワー株式会社 スチームパワービジネスユニット副ビジネスユニット長 兼 長崎工場長
2021年10月 三菱重工業株式会社 エナジードメイン エナジートランジションパワー事業本部 SPMI事業部 副事業部長 長崎地区統括
2023年04月 三菱重工パワーインダストリー株式会社 執行役員 サービス事業部長
2024年04月 三菱重工パワーインダストリー株式会社 取締役社長(現職)

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