
ソーダ回収ボイラーの最新動向 燃焼方式・ビア缶式黒液バーナー・NOx低減などの注目技術を解説
ソーダ回収ボイラーは、製紙工程で発生する廃液(黒液)を燃焼させて蒸気を生み出し、同時に苛性ソーダなどの薬品を再利用可能な形で回収する設備です。エネルギー回収と薬品再利用という二つの重要な役割を担っており、製紙工場にとって欠かせません。本稿では『三菱重工パワーインダストリー技報 Vol.9(2025年)』に掲載の「ソーダ回収ボイラーの最新動向」より、燃焼方式の最適化や排ガス中のNOx対策など、注目のトピックスを抜粋してご紹介します。
より詳しい技術解説をご覧になりたい方は、技報をダウンロードの上、ご確認ください。
三菱重工パワーインダストリーは2022年4月より、国内の三菱重工グループ製ソーダ回収ボイラー28機すべてのアフターサービスを一括して担当しています。三菱重工業と連携しながら、技術継承と運用最適化を一体的に進めています。
現在、多くの設備が導入から30年以上を経過しており、補修・更新を進めつつ運転環境の変化に対応した設備改善が求められています。
ソーダ回収ボイラーは、製紙工場で発生する黒液を燃焼させることで蒸気(エネルギー)を得ると同時に、含有薬品(苛性ソーダなど)を高温で還元・溶融し、固形状の薬品原料(スメルト)として回収します。この薬品は再びパルプ製造工程に戻され、繰り返し利用されます。
また、黒液は木材由来のバイオマス燃料であるため、これを利用するソーダ回収ボイラーは、再生可能エネルギー活用設備として注目されています。
ソーダ回収ボイラーでは、黒液を安定して燃焼させるために、1次・2次・3次の3段階で燃焼用空気を供給する方式が一般的に採用されています(図1)。
この方式では、黒液を炉内に噴霧し、乾燥・燃焼させながら、炉底にチャーベッド(炭化物の堆積層)を形成し、蓄熱を活用して燃焼を維持します。
この従来の燃焼方式では、黒液の水分が多かったため、チャーベッドを大きく保つことで十分な熱量を確保し、安定した燃焼を実現していました。
一方、「多段燃焼方式」では、空気の供給方法を再構成することで燃焼ガスの流れ、および温度分布を制御し、キャリーオーバー(未燃粒子や薬品が燃焼ガスに混ざり、炉外へ流出する現象)と局所的な過熱を抑制します(図2)。ただし、この方式を導入するには、空気配管や炉体構造の大規模な改造が必要となり、その点が課題です。
そこで注目されているのが「疑似多段燃焼方式」です。これは、既設の空気供給設備を生かしながら、3次空気の吹き込み圧力や空気配分を最適化することで、多段燃焼方式に近い燃焼特性を実現します。国内の実施例では、キャリーオーバーの抑制効果が確認されており、現場の改善策として有効です。
さらに三菱重工パワーインダストリーでは、これまで海外メーカーに依存していた流動解析(炉内の気流や温度分布をシミュレーションする技術)を内製化し、燃焼方式の改良効果や空気噴口の最適配置を、より迅速かつ的確に評価できる体制を整えました。
当社の黒液バーナーはスプレイプレート式と呼ばれるものを採用してきましたが、環境面・性能面で良好な結果が得られているビア缶式黒液バーナーをソーダ回収ボイラー実機に適用し、その効果を確認しました。ビア缶式黒液バーナーは黒液を旋回しながら噴射する形状が特徴で、空気量の投入配分や燃焼の調整を行うことでスプレイプレート式からビア缶式に交換した場合でも安定運転ができ、さらに以下の成果を得られました。
1)NOx・CO濃度の低減
2)チャーベッドの安定形成
3)灰付着量の抑制(過熱器や火天井管)
4)キャリーオーバーの低減
今回の実機適用は当初試験的な取り組みでしたが、その後も安定した運転が確認できており、現在も継続中です。ビア缶式は、多段燃焼方式や疑似多段燃焼方式と組み合わせることにより、相乗効果が得られると考えています。
→詳細は『三菱重工パワーインダストリー技報Vol.9』をダウンロードの上、ご覧ください。
ソーダ回収ボイラーは近年、黒液濃度の上昇やボイラー低負荷運用などの運転環境の変化により、NOx濃度が増加する傾向にあります。一般的なボイラーでは空気の投入量や配分を調整してNOx濃度を低減させますが、ソーダ回収ボイラーではチャーベッドの安定燃焼を維持させる必要があるため、燃焼調整に加え、炉内脱硝技術(尿素注入)の併用が有効です。
三菱重工パワーインダストリーでは、既納ボイラーへの尿素注入設備を追設し、尿素注入を最適化した運転条件においてNOx濃度を30%程度低減できることを確認しました。尿素注入装置の追設による良好な炉内の脱硝反応を得るためには、注入量や注入位置の最適化が重要です。
従来の1次空気噴口ノズルは溶接構造を採用しています。このノズルが炉内の輻射熱によって焼損することで、炉壁管に腐食・減肉が生じる現象が確認されていますが、ノズルが溶接で固定されているために炉壁菅の補修や取り換えなどのメンテナンスが困難でした。
そこで三菱重工パワーインダストリーでは、この課題解決のため1次空気噴気口ノズルに「鋳物ポート構造」を導入。この構造には以下のような特長があります。
1)ボルト固定式で脱着が簡単
2)炉壁菅の点検・補修時の作業性が向上
3)約15年にわたり交換不要という実績
これにより、火炉下部炉壁菅の開口部の点検や部品交換などのメンテナンスを容易にし、設備全体の信頼性に結びつけました。
スメルトスパウト(高温のスメルトを外部に排出するスパウト<樋>)は、運転中でも頻繁な清掃が必要で、現場の作業負担が大きい領域です。
この課題に対し、ロボットアーム型(マニプレータ)自動清掃装置の開発に着手しました。模擬試験では、2.6mの距離から2台のスパウトを安定して自動掃除できることを確認。現在は以下の項目について製品化の検討を進めています。
1)掃除棒形状の最適化
2)安全装置・保護柵の設計
3)ボイラー情報とのインターロック機能
今後も実機導入に向けてさらなる検証を重ねていきます。
『三菱重工パワーインダストリー技報Vol.9』ではソーダ回収ボイラー以外にも
「水素の拡散燃焼における噴射圧力および空気供給方法がNOxへ与える影響」
「水素とガス燃料との混焼特性及び実機適用時の考慮事項」
「産業廃棄物焼却炉用廃熱ボイラ設備」など、魅力的な記事が掲載されています。
ぜひご覧ください。
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