三菱重工パワーインダストリー POWER of Solution

産業用火力

屋外向け多chリモートI/O開発の舞台裏 ― 過酷環境でも精度を落とさない設計とは

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インタビュー
2026/2/25

屋外設置が前提となるプラント設備では、温度変化や電気的なノイズ、システムの冗長化など、制御機器にとって厳しい条件が重なります。『三菱重工パワーインダストリー技報 VOL.10[2026]』に掲載された技術論文には、「屋外向け多ch リモートI/O」の開発について、システム構成や信頼性試験の評価などを詳細に記述しています。本記事では、開発者の岩田誠氏と青江正太郎氏に伺った、論文では語りきれない開発の背景や設計上で苦労したポイントなどを紹介します。

技術論文はこちらよりダウンロードの上、ご覧ください。
ご覧いただくにはIDとパスワードが必要です。

屋外設置が前提のプラント現場で使えるリモートI/Oがなかった

――『三菱重工パワーインダストリー技報 VOL.10[2026]』に掲載の論文を一言で表現すると。

岩田:市販品ではラインナップされていない、耐温度範囲を拡張した屋外向けのリモートI/O (Input/Output) 機器を開発した話です。
当社のボイラー設備はほとんどが屋外設置なため、現場では真夏の直射日光や冬の冷え込みといった環境が前提になります。夏場は40℃を超える日も珍しくなく、直射日光下では機器内部の温度が50℃を超えることもあります。一方、冬は氷点下まで下がります。

こうした環境で使うことを考えると、動作温度範囲が0~50℃程度に設定された市販品では前提条件が合いません。そこで、屋外環境での使用を前提にしたリモートI/Oを自社で開発するという判断に至りました。

――この開発は、現場のどんな「困りごと」や課題から始まりましたか。

 岩田:サステナビリティの観点から、石油由来の材料でもあるケーブルの量を減らすことに取り組んでいます。
以前、Wi-Fiで計器と制御機器をつなぐ無線型のリモートI/O(MoMonga®)を開発しましたが、全てを無線にするにはリスクがあり、現時点では信頼性の観点で無線化しづらい信号もあります。
そこで有線型のリモートI/Oを検討したのですが、屋外で使えるものが見つからず、自社で開発することになりました。

温度を広げても精度を落としたくない

――本製品の特徴の一つが、−20℃~60℃という広い温度範囲に対応している点だと思います。

岩田:単に温度範囲を広げるだけでは意味がありません。温度が変わっても、アナログ信号の値がふらつかず制御に影響しないことが重要です。
「温度を拡張したから精度が落ちました」ではなく、市販品と比べて劣らない精度を屋外環境でも維持する、そこを意識しました。

精度評価の条件や試験の考え方については、技術論文で詳しく解説していますので、ご覧ください。

技術論文はこちらよりダウンロードの上、ご覧ください。
ご覧いただくにはIDとパスワードが必要です。

技術開発部 制御システム開発課 主席技師 岩田 誠(いわた まこと) 

――設計する上で苦労したことはありますか。

岩田:温度対応そのものは、自動車関連の電子機器設計の経験があるため正直、ハードルはそれほど高くはありませんでした。
それよりも苦労したのが、耐ノイズ設計です。

プラントの現場では、モーターやインバーター、電源装置などから電気的・電磁的なノイズが常に発生しています。ノイズ対策は、例えば回路だけを良くすればいいという話ではなくて、回路設計・基板設計・筐体設計・配線設計と全てがつながっています。配線ルートが基板をまたぐ形になると、それだけでNGになることもあります。ですので「一カ所を完璧に」ではなく、設計全体を見ながらバランスを取る作業が重要です。
この作業が設計者としては難しくもあり、やっていて面白い部分ですね。

I/Oを止めない。それが冗長化設計の出発点

――CPUを2個搭載する設計にした理由を、現場の視点で教えてください。

岩田:プラント全体を制御するDCS(分散制御システム)が冗長化されている以上、現場の入出力を担うリモートI/Oも、同じ考え方で「止めない」設計にする必要があります。I/O側が止まると、メンテナンスをする必要があるだけでなく、最悪の場合はボイラーやプラントの停止といった事象につながります。

そこで本製品では、CPUを2個搭載した冗長構成としました。特徴は、メインとサブを分けて「待機させる」のではなく、2個のCPUが常に同じ処理を並行して行う点にあります。どちらか一方に異常が発生しても、もう一方が即座に引き継げるよう、サブ側も常に動作し続けています。

――「止めないため」にソフト側で一番気を遣ったところはどこですか。

青江:CPUが2個でも、最終的に外部へ出力する指令は1個です。上位の制御機器(DCS)自体が二重化されており、状況によっては出力される指令データにわずかなズレが生じることがあります。そのため本製品では、どのデータを採用するかを確認し、信頼できる指令を選び続ける仕組みをソフト側で組み込みました。

また、止めない動作を安定して維持するため、処理が一部に偏らない設計にしています。入力、演算、出力、通信といった処理を細かい時間単位に分け、特定の処理がCPU資源を長時間占有しないように配慮しました。全体が滞ることなく回り続けることを重視したソフト設計は、組み込み開発では必須で、本製品もその基本を踏襲しています。

技術開発部 制御システム開発課 課長 青江 正太郎(あおえ せいたろう)

「ここも見たい」に、運転開始後でも応えられる多ch リモートI/O

――多ch リモート I/Oの価値が最も実感できるのはどんなシーンでしょうか。

岩田:運転開始後ですね。設備を動かし始めてから、「ここも計測したい」「この挙動をもう少し詳しく見たい」といった要望が出てくることは少なくありません。

従来であれば、新たな測定点を追加するたびに、制御室までケーブルを引き直す必要がありました。工事の手間やコストがかかるだけでなく、運転中の設備に手を入れること自体が大きな負担になります。多ch リモートI/Oであれば、近くに設置されたユニットの空いているチャンネルに接続するだけで対応できます。

さらに、多ch リモートI/O自体を数珠つなぎで増設できるため、将来的な拡張にも柔軟に対応できます。運転中に不穏な挙動を感じ、「ここを見たい」と思ったタイミングで、比較的スムーズに測定点を追加できる点は、現場にとって大きなメリットです。配線量を抑えられることは、工事負荷やコストの低減につながるだけでなく、屋外環境を前提とした設備設計との相性も良好です。

青江:最終的には、多ch リモートI/Oを使っていることを特別に意識することなく、プラントの制御や監視がスムーズに行える状態を目指しています。

設計の考え方と評価の詳細は『三菱重工パワーインダストリー技報 VOL.10[2026]』で

本記事では概要のみをご紹介しましたが、技報の技術論文「多ch I/Oユニットの開発」では
1) 温度変化を前提とした設計の考え方
2) 電気的ノイズに対する具体的な設計・試験
3) 冗長化構成とその評価結果
などを、試験写真を交えて詳しく解説しています。ぜひ下記よりダウンロードいただきご確認ください。
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プロフィール

左:技術開発部 制御システム開発課 課長
青江 正太郎(あおえ せいたろう)
右:技術開発部 制御システム開発課 主席技師
岩田 誠(いわた まこと) 

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