三菱重工パワーインダストリー POWER of Solution

interview

産業用ボイラー向け水素焚きガスバーナー開発への道~津村俊一氏(主幹技師・工学博士)インタビュー<後半>

2023/8/30

2050年のカーボンニュートラル社会実現へ向けて様々な取り組みが行われています。その重要なファクターの一つが水素の燃料利用です。三菱重工パワーインダストリーではウェビナー等を通じて今までも水素に関する取り組みを紹介してまいりました。今回は改めてウェビナー講師でもある主幹技師の津村俊一氏(工学博士)に「産業用ボイラー向け水素焚きガスバーナー」開発への道のりについて話しを聞きました。その後半です。

水素を高圧化し燃焼振動を抑えることに成功

インタビュー前半では水素を高圧化することのメリット、高圧化することで実現すること、燃焼振動が発生すると起きてしまう望ましくないトラブル、燃焼振動を起こさないように行ったノズル開発等についてご紹介しました。インタビュー後半では、重要課題であったNOx(※)を抑えるためにどのような開発を行ったのかご紹介します。

※…物が高い温度で燃えた際に空気中の窒素(N)と酸素(O₂)が結びついて発生する、一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO₂)等の公害物質のことを指す

 低NOxの実現に向けて

――インタビュー前半で、ノズルの改良を行った際にガス燃焼を緩慢化することでNOxを抑えることができるとお話しされていましたが、改めてその理由を教えていただけますでしょうか。

津村:そうですね。その前に前回のおさらいも含めて、改めて今回の開発に関しての課題と私たちの取り組みからお話ししましょう。まず、水素というのは発熱量が低いんですね。なのでなるべく圧力を上げて体積を増やさないようにしないといけません。そして水素は燃焼速度がプロパンガスに比べて7倍も速い。ただでさえガスは燃焼速度が速いのですが、水素はその7倍もあります。そうすると何が起こるかというと燃焼振動を起こしやすくなります。さらに燃焼速度が速いということは火炎温度も高くなります。すると火炎が戻る逆火によりノズルが焼損しやすくなります。これに苦労するわけです。

――なるほど…

津村:水素を燃やす時には水素と酸素を混ぜるのですが、燃焼速度が速くて火炎温度が高いのでノズルの中まで燃えてしまう可能性があります。そうすると具合が悪い。なのでそうならないように我々は「拡散燃焼」という、空気と水素を最初から混ぜずにノズルの先で混ぜ合わせる方式を採用しました。そうすることで逆火等を起こすことがなくなります。しかし今度はNOxが高くなってしまうという難題が発生しました。

水素バーナー構造 センターファイアリング型バーナー
水素バーナー構造 センターファイアリング型バーナー

――次々と課題が生まれますね。

津村:そうですね(笑)拡散燃焼方式だとプロパンガスの2~3倍もNOxが高くなってしまいます。しかし公害物質であるNOxについては大気汚染防止法などの基準値があり、それ以下に抑えなければいけません。その方法を考えるのに工夫を要しました。

――解決策が見つかったのですね?

津村:その一つが前回お話したノズルの工夫に繋がります。主孔と副孔を交互に並べて噴射角度の調整等を行い、火炎を長くし燃焼を緩慢にする。そうすることでNOxを下げることに成功し、さらには振動も起こさず、バーナー基部の安定燃焼も実現しました。これも特許をとっています。

水素専焼時の燃焼特性
水素専焼時の燃焼特性

低NOxのみならず安定燃焼も実現し効率的に電気と蒸気を得る

――ノズルは都市ガス等にも採用されているのですか?

津村:そうですね。これを使えば都市ガスでも燃焼振動が止まるということが実証されています。それぞれの燃料には特性があります。水素には水素なりの活かし方を行い安定燃焼させることが最も大切です。それがこのノズルによって、課題となっていた“高圧化” “燃焼振動回避” “安定燃焼”等がすべて実現しました。

――素晴らしいです!

津村:そこでさらにNOxを下げる試験を行いました。その一つが従来技術の二段燃焼です。

――二段燃焼とはどういう仕組みでしょうか?それがなぜNOxを下げることに繋がるのですか?

津村:ものを完全に燃え切らせるのに必要な空気量を理論空気量といいます。それを1とすると、空気量を1だけの供給とした場合には実際のボイラー内では燃え切らないことがあるので、プロパンガスでは例えば1.05とか1.1等、過剰に空気を入れてしっかり燃やし切ります。そこで水素では1.1をベースに実験を行ったわけですが、その際に、最初に入れる空気の量を抑え、燃焼を緩慢にすることでNOxを下げました。その後、燃焼炉後方のアフターエアポート(AAP)という所から不足分の空気を入れます。するとトータルの空気量は1.1と変わらないので問題なく燃焼が行われます。

――なるほど!

津村:さらに燃焼すると出る排ガスを循環させて燃焼用空気に混ぜました。そうすると燃焼空気中の酸素濃度が下がって緩慢燃焼になりじわじわと燃えます。そして火炎温度の上昇を抑制します。火炎の温度が高ければ高くなるほどNOxの量は増えるので、火炎の温度を抑える働きにより、NOxを下げることができます。

――燃焼温度を下げても大丈夫なのですか?

津村:そうです。下げても酸素の量は変わらないので燃焼は完結します。つまりじわじわと燃焼させた方がNOxは下がるし良いのです。他にも火炎の温度を下げるために火炎に水を直接噴射したり、水管をバーナー前の空間に設置して、火炎を水管に接触させることで冷却する方法も実施しました。水管がいいのは熱吸収してくれるので蒸気発生装置に使えること。これも特許をとりました。

――まさに一石二鳥の効果ですね!さらに効率化もされていますね。

津村:さらにですね。水素の供給圧力を上げることによってNOxが下がることも分かりました。

――どういうことでしょう?

津村:水素は圧縮性流体のため供給圧力が高くなればなるほど、ノズル孔噴出後の水素は広がりますね。そうすると水素噴出方向の中心軸上の水素濃度は低くなるわけです。水素濃度が低くなると必然的に火炎温度も低くなる。火炎温度が低くなればNOxも下がる、という理屈です。

――素晴らしいです。

津村:言われてみれば納得できる話ですが、これは委託先である帝京大学様による燃焼解析により分かりました。

開発で実現した水素利用への近道

2020年から3年に及ぶ産業用ボイラー向け水素焚きガスバーナーの開発により、今まで課題となっていたすべてをクリアすることができました。安定燃焼は産業用ボイラーにとって最重要項目です。三菱重工パワーインダストリーでは皆様の産業用ボイラーを活かしつつ、天然ガス等との混焼を含め、水素が0~100%の広い燃料条件で、水素を利用可能としたボイラーを低コストかつ効率的に実現します。ぜひお気軽にお問合せいただければと思います。

プロフィール

プロジェクト事業部 主幹技師
博士(工学)、技術士(機械部門)
津村 俊一

1980年に旧バブコック日立(株)に入社。その後、三菱日立パワーシステムズ(株)、三菱パワー(株)、三菱重工業(株)への事業統合を経て、現在は三菱重工パワーインダストリー(株)に勤務中。これまで、事業用ボイラー並びに産業用ボイラーの主に燃焼器の開発・設計に従事。2019年に学位(工学博士)、2020年に技術士(機械部門)の資格を取得。現在、2020年に採択されたNEDO助成事業として、産業用ボイラー水素焚きガスバーナーの開発を継続推進中。

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