三菱重工パワーインダストリー POWER of Solution

interview

産業用ボイラー向け水素焚きガスバーナー開発への道~津村俊一氏(主幹技師・工学博士)インタビュー<前半>

2023/8/29

日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、水素の燃料利用はまったなしの状況です。これまでも三菱重工パワーインダストリーではウェビナー等を通じて水素に関する自社の取り組みについてお伝えしてきました。今回は改めてウェビナーの講師でもある主幹技師の津村俊一氏(工学博士)に「産業用ボイラー向け水素焚きガスバーナー」開発への道のりについて話を聞きました。今回はその前半です。

2050年カーボンニュートラル社会へ向けた水素を取り巻く社会情勢

津村氏へのインタビューの前に水素利用を取り巻く社会情勢と三菱重工グループの方針についてご紹介します。

2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスを全体としてゼロにすると宣言しました。さらに、2021年4月には2030年度の温室効果ガス排出削減目標を、2013年度の排出実績の46%にすると発表しています。また、現状100円/Nm³と高価な水素の価格(※1)を2030年には30円/Nm³、2050年には20円/Nm³まで抑えるとも目標を公表しています。

三菱重工グループとしては再生可能エネルギーや蓄電、原子力等も含めたカーボンニュートラルへの取り組みの一貫として、火力発電における脱炭素化を目指し水素利用を推進していく方針です。それを踏まえ、我々は産業用ボイラー向け水素焚きガスバーナー開発を推進してきました。本取り組みは2020年7月にNEDO助成事業(※2)に採択され、また帝京大学や横浜国立大学との共同開発として、産官学連携での開発体制を取り成果を得ました。

※1…2020年度決算説明及び2021事業計画推進状況より抜粋

※2…NEDO水素社会構築技術開発/大規模水素エネルギー利用技術開発:高濃度水素混焼/水素専焼焚きボイラー・発電設備の技術開発

水素供給を高圧化することの意義

――水素焚きガスバーナーにおいて、水素を高圧化して運用することに成功されたと聞きました。その意義について教えてください。

津村:水素は単位発熱量当たりの体積が都市ガスやLPガスと比べて大きいため、低圧の状態で使用するとなると設備が大型化してしまいコストがかかってしまいます。一方で高圧条件で水素を供給できれば同一発熱量でも体積が小さくなるので、小径配管・小型機器で搬送可能となり、バーナー周りの機器もコンパクト化でき、システムコスト面とメンテナンス面の両方で成果の意義は大きくなります。

――なるほど…高圧で運用することに対してメリットがあることは少し分かりました。具体的にこちらの装置ではどのような試験を行っているのでしょうか?

津村:これは1本あたり、7Nm³の水素が入っているボンベです。1カートン20本のボンベを2カートン設置しています。試験では減圧弁を使って、15MPaG(150㎏/cm²)から990kPaG(約10㎏/cm²)へ減圧(一段減圧)、さらに990kPaGから500kPaGあるいは、100kPaGに減圧(二段減圧)したりしています。そのように必要な圧力に調整した水素をバーナーまで供給して、燃焼試験をしています。

――先ほど低圧の状態で水素を使用すると設備が大型化してしまってコストがかかると仰っていましたが、他にも高圧の状態で運用可能とするメリットがあるのでしょうか?

津村:そうですね。そもそもガスというのは燃焼速度が速くて一般的に100kPaG(1㎏/cm²)以上の供給圧力にしてしまうと燃焼振動という良くない現象を生んでしまう可能性が確認されています。燃焼振動が起こるとどうなるかというと、ボイラー全体が共鳴して振動を起こしてしまいそれにより設備が壊れたりしてしまうわけです。そうするとボイラー自体が運用できなくなり大変な損失になります。そのため、100kPaG以内という低圧の状態で使用しなければならなかったわけですが、我々は900kPaGという9倍の高圧状態でも燃焼振動を起こす事なく使えるように試験開発し成果を得ました。

燃焼振動を起こさないための戦い。特許も取った特殊ノズルの開発

――燃焼振動の恐ろしさがよく理解できました。燃焼振動を抑えるために、具体的にどんなことをされたのでしょうか?

津村:ノズルの開発改良です。ノズルがなぜ大切かというと、高圧でガスを噴出すると火炎がバーナーの基部ではなく、その先に吹き飛んでしまう。そうなると、火炎が不安定となり、それが脈動に繋がってしまい燃焼振動が起こります。その為、バーナーの基部から火炎がしっかりと確実にホールドできるようなノズルの開発が必要でした。このノズルは特許を取得していますが、低圧でも高圧でも広い運用範囲で安定してバーナーの基部から火炎が形成するようになっています。

――たしかに安定に燃焼させることで、ボイラーを広い運用範囲で安全に運用することができますね。

津村:そしてそれが常に安定していることが大切です。高圧にしても安定していなければ先ほども話した通りボイラーを止めなければならず、ボイラー運用に大きな損失を与えます。

――この画像を見ると、従来型のノズルでは燃焼振動の兆候が見られているのに、津村さんのチームが開発したものでは見られないのですね。

左:燃焼振動の兆候有 右:燃焼振動の兆候無
左:燃焼振動の兆候有 右:燃焼振動の兆候無

津村:そうです。我々が開発した低振動高圧ガスノズルではバーナー中央の基部にしっかりとまんべんなく火炎が出ているでしょう。直径の大きい主孔と直径の小さい副孔を4個ずつ交互に配置し、副孔は孔の断面積を小さくすることで孔出口部での燃料と空気との混合が促進されバーナー基部の火炎の揺らぎを抑制しています。さらに主孔は長炎化によりガス燃焼を緩慢化することを目的としています。緩慢化することでNOxを抑えることもできるんです。これはまた後で説明しますね。あとは主孔と副孔の噴射角度を燃焼試験と数値シミュレーションを駆使して最適化しました。

――燃料を高圧の状態で送り込むことで機器もコンパクト化することができ、さらにボイラーを広い運用範囲で安全に運用できるということですね!高圧化を行う事のメリットがよく理解できました。ありがとうございます。

産業用ボイラーの一刻も早い水素利用を目指して

既存の産業用ボイラーの水素利用拡大の為、現在のボイラー設備のままで水素利用ができるように水素焚きバーナーの開発を行った開発設計チーム。これにより産業用ボイラーを持つ企業様は、低コストかつ広い運用範囲で水素利用を促進することができます。インタビュー前半では、高圧化のメリット、燃焼振動の恐ろしさ、ノズル開発についてお話を聞きました。後半はさらに低NOxを実現するためにどのような開発努力が行われたかについてご紹介します。後半もお楽しみに。

プロフィール

プロジェクト事業部 主幹技師
博士(工学)、技術士(機械部門)
津村 俊一

1980年に旧バブコック日立(株)に入社。その後、三菱日立パワーシステムズ(株)、三菱パワー(株)、三菱重工業(株)への事業統合を経て、現在は三菱重工パワーインダストリー(株)に勤務中。これまで、事業用ボイラー並びに産業用ボイラーの主に燃焼器の開発・設計に従事。2019年に学位(工学博士)、2020年に技術士(機械部門)の資格を取得。現在、2020年に採択されたNEDO助成事業として、産業用ボイラー水素焚きガスバーナーの開発を継続推進中。

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