三菱重工パワーインダストリー POWER of Solution

産業用火力

水素発電でサステナブルな未来を。その仕組みとメリット・デメリットを解説

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2024/2/19

水素発電はカーボンニュートラル社会の実現へ向けたクリーンなエネルギーとして、バイオマス発電等と共に注目される発電方式です。電源のゼロエミッション化や再生可能エネルギーの効率的な活用、水素・アンモニアの利用によるエネルギーの安定供給などが期待され大量の需要が見込まれています。政府は第6次エネルギー基本計画において、2030年度の電源構成のうち、水素・アンモニアで1%程度を賄うこととしています。今回は水素発電の仕組みとメリット・デメリットをご紹介します。

水素発電とは

水素発電とは、水素を燃料として使用し発電する方法の総称です。水素発電は水素と酸素の化学反応を利用するため、地球温暖暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないクリーンな発電方法として期待されています。

水素発電の仕組み

水素発電では水素を空気中の酸素と反応させて発電させます。この反応は燃料電池やガスタービンなどで行われます。

水素発電の排出物

水素と酸素の反応によって生成されるのは水だけです。二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないため、環境負荷が低い発電方法として注目されています。

水素の入手方法

水素は、天然ガスなどの化石燃料を改質したり、水を電気分解したりすることで製造できます。再生可能エネルギーを利用して水を電気分解すれば、製造段階でもCO₂排出量を抑えることができます。

水素発電で発電した電気の用途

家庭用燃料電池や自動車の燃料電池、産業用火力発電所など、他にも様々なシーンでの活用を見込まれています。

3つ以上ある水素の種類 

元素としての水素は一つですが、その製造方法からグレー水素、ブルー水素、グリーン水素などに分類されています。この他にもいくつか分類がありますが、代表的なものがこの3つです。

グレー水素

グレー水素は化石燃料をベースとして作られています。安価な原料を使って水素をつくるためにあまり使用されず安価な「褐炭(低品位な石炭)」や未使用のガスなどを原料として使う研究が進められています。

ブルー水素

ブルー水素も化石燃料をベースとしていますが、水素の製造工程で排出された二酸化炭素を回収したり利用したりして排出量を抑えたものを言います。

グリーン水素

グリーン水素は再生可能エネルギーなどを使って、製造工程においても二酸化炭素を排出せずにつくられたものです。

水素発電の3つの発電方式。その仕組み

水素を燃料とした発電方式には3つの種類があります。

水素を燃料とした発電の種類
資源エネルギー庁 燃料電池推進室「水素発電について」の画像参照

汽力発電

汽力発電は「水素」または「水素+他の燃料」をボイラーで燃焼させたことにより発生した蒸気によってタービンを回転させて発電機を動かし発電する方法です。

ガスタービン発電

ガスタービン発電は「水素」または「水素+他の燃料」をガスタービンで燃焼しタービンを回転させて発電機を動かし発電する方法です。

燃料電池発電

燃料電池発電は「水素」と「酸素」の化学反応から直接電力を取り出す方法です。

3つの発電方法のうち、三菱重工パワーインダストリーは汽力発電に対応しており、このボイラーに使用することが可能な水素焚きバーナー(専焼&混焼可)の開発を完了しています。

ガスタービン発電に関しては、三菱重工業がこれまで小型ガスタービンにおいて混焼から専焼まで燃焼器を開発し、実機実証まで実施しています。大型ガスタービンにおいても30%混焼や専焼の燃焼器開発を進めています。

2050年のカーボンニュートラル社会の実現へ向けた中長期の水素利活用の拡大に向けて、水素発電は水素の製造、水素の輸送・貯蔵そして利用において、産学官による革新的技術の研究開発が必要です。 

水素発電はなぜ注目されるのか?3つのメリット

エネルギー資源としての水素が注目されるのには3つのポイントがあります。

水素発電のメリット:地球上にあるさまざまな資源からつくることができる

水素はさまざまな資源からつくることができます。電気を使って水から取り出したり、石油や天然ガスなどの化石燃料やメタノールやエタノールから取り出したり、下水汚泥、廃プラスチック等、多様な資源が水素の素になり得ます。また、製鉄所や化学工場等では、製造過程において副次的に水素が発生しています。

水素発電のメリット:二酸化炭素を排出しない

水素は酸素と結びつけることで発電したり、燃焼させて熱エネルギーとして利用したりする事ができますが、その際に二酸化炭素を排出しないのでクリーンなエネルギーとしてカーボンニュートラル社会の実現に貢献します。

水素発電のメリット:貯めておくことができる

水素は太陽光発電や風力発電等とは違いエネルギーを形を変えて貯めておくことができます。

これら3つの特徴から水素は日本にとって究極のエネルギー源となる可能性があります。日本は90%以上の一次エネルギーを海外からの化石燃料に輸入に頼っており、特に特定地域への依存度が高いため、国際情勢の影響を受けやすく「エネルギー安全保障」の課題があります。日本国内の資源を水素発電に利用できればエネルギー自給率が向上し、エネルギー安全保障の課題を解決へと導ける可能性があります。

水素発電におけるデメリットとは

水素発電が抱える課題もいくつかあります。

水素発電のデメリット:水素の安全性

水素は気体の中でもっとも軽く、無色・無臭で拡散・漏洩しやすく、金属材料を脆化させる、着火しやすいといった性質があります。これらの特性を鑑み国際的な基準の策定を日本が先導し、適切な保安基準を整備する必要があります。

水素発電のデメリット:水素の供給コスト

現状の供給コストから利活用の拡大に向けて大幅なコストダウンが必須です。そのためには安価な材料を使って水素をつくり、水素の大量製造や大量輸送を可能にするサプライチェーンを構築し、燃料電池自動車(FCV)や発電、産業利用などで大量に水素を使用するサイクルを構築する事が必要です。政府は2030年に30円/Nm³(約334円/kg)、 2050年に20円/Nm³(約222円/kg)の目標を掲げています。

水素発電の課題と将来の展望

大きな期待が寄せられている水素発電の現状の課題と将来の展望についてご紹介します。

水素発電の現状の課題

現状、水素の製造コストは他のエネルギー源と比較して高いため、発電コストも高くなります。特に、「グリーン水素」は、まだ生産量が少なく、コスト削減が課題です。また、水素は体積あたりのエネルギー密度が低いため、効率的な輸送・貯蔵には高度な技術が必要です。水素ステーションなどのインフラ整備も遅れていて、普及のボトルネックとなっています。

さらに水素は可燃性が高く、漏洩や爆発のリスクがあります。安全な輸送・貯蔵、発電システムのための技術開発と法整備が不可欠でもあります。そして水素燃焼発電では、既存の火力発電設備を転用する場合、燃焼特性の違いから技術的な課題が生じます。燃料電池発電では、耐久性やコストの課題が残されています。

水素発電の将来の展望

将来的に水素発電が火力発電に代わる主力電源の一つとなる可能性があります。特に、再生可能エネルギーの変動を調整する調整電源としての役割が期待されています。

燃料電池などの技術を活用することで、地域分散型エネルギーシステムへの貢献も期待されています。災害時の非常用電源としての活用も考えられます。

水素エネルギーの普及には、国際的な連携が不可欠です。水素の製造、輸送、貯蔵など、サプライチェーン全体の構築に向けた国際的な協力が進むと予想されています。

水素発電のグローバルトレンド

2050年のカーボンニュートラル社会実現に向けて大きな期待がかかる水素発電の日本における最新動向についてご紹介します。

実証プロジェクトの推進

世界各地で、大規模な水素発電の実証プロジェクトが開始されています。日本では、福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)などが代表的です。

政策・戦略の強化

各国政府が、水素エネルギーの導入を促進するための政策や戦略を強化しています。日本では2024年9月6日に資源エネルギー庁が掲出した「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」によると、2023年6月に水素基本戦略を改定。水素供給量について、2040年に1,200万トンを目指すことを追加しました。さらに、水素の普及に向けて供給コスト低減と需要拡大をはかるべく、規制と支援を一体的に盛り込んだ「水素社会推進法」が2024年5月に成立しました。今後、同法に基づく、既存原燃料との価格差に着目した支援や拠点整備支援などの措置や、保安規制の最適化や合理的な技術基準の適用などにより、低炭素水素等の供給・利用を促進していく方針です。

世界でも、水素社会の実現に向けた動きが活発化していて、イギリスでは「水素CfD制度(値差支援)」、ドイツでは「H2グローバル」、EU全体では「欧州水素銀行」などが立ち上がっています。また、アメリカでも「インフレ削減法(IRA)」での税額控除や「超党派インフラ法」による水素ハブの選定が行われるなど、各国において企業への大規模な水素の実装支援が立ち上がっています。

三菱重工パワーインダストリーの水素発電への取り組み

脱炭素社会の実現に向けて、火力発電や送気用ボイラーでの水素利用が期待されています。既存ボイラーで使用する燃料を水素に転換することで、既存設備を活用し、経済的かつ大規模な水素利用を実現できます。また、GTCCプラントでは、GT向け燃料だけでなく、HRSG用追焚バーナーにも水素利用のニーズが高まっています。

水素燃料の大規模導入には、水素の特性に起因する課題を解決する必要があります。三菱重工グループでは、2040年にカーボンニュートラルを実現させるためのロードマップを引き、社会実装へ貢献します。そのために、安全に運用できる拡散燃焼バーナーを使用した水素燃焼技術の開発を進めてきました。

そして、目標をすべてクリアする拡散燃焼方式の高性能水素燃焼バーナーの開発に成功しました。低NOx手法の組合せ適用で水素の極低NOx燃焼を実証し、水素供給圧力高圧化によるNOx低減燃焼を確認。K型バーナー適用によりバーナーのみで超低NOx燃焼を確認しました。他燃料との混焼を実証し特性を把握した他、ダクトバーナーでの水素燃焼を実証し特性を把握しました。

水素燃焼技術関連の特許を10件以上取得し、「水素焚産業用ボイラー」が令和5年度のSII(※)の先進設備・システムの補助対象設備として採択されました。

※…一般社団法人 環境共創イニシアチブ

水素発電に関するよくある質問

水素発電に関するウェビナーなどでいただいた質問についてこちらの記事よりご確認ください。

水素発電にご興味をお持ちになりましたら、三菱重工パワーインダストリーにお気軽にお問い合わせください。

参考)

令和5年6月6日 再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議 「水素基本戦略」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/pdf/20230606_2.pdf

経済産業省「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/energy_structure/pdf/024_04_00.pdf

資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso.html
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso_tukurikata.html

公益財団法人 東京都環境公社
https://www.tokyo-suisomiru.jp/hydrogen-energy/

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